高音質配信のジレンマ

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▼配信をPCに対して行う問題点
 改めて考えてみると,「配信」という手法そのものの課題もいくつかあるように思います。

○PCそのものがオーディオを高品位に再生できるのか怪しい
 バイナリの一致を前提すること自体Windowsでは厳しいのに,ハードウェア的にはますます厳しいものがあります。一般的によくある自作PCくらいではやはり色々と難しいものがあるのが現実でしょう。

○PCにつながっている音響機器が高品位に再生できるのか怪しい
 PC自体の問題もありますが,PCにつながってるオーディオ機器が,言い方は悪いですが一般的には大したことないものだということもかなりの問題である気がします。現状ハイファイ方向を明確に意識したものってLinnのDSシリーズくらいですし…。

▼環境を打破するほどの優秀録音って可能?
 ぶっちゃけPCで音楽聴いていますっていう人の過半数はオンボードの音声出力で,そこから数千円のパワードスピーカーでしょう。そのような環境でいくら高音質配信を聴いても,リスナーをして,オーディオにこだわってみようと行動に移すほどの感動体験はなかなか提供できないのではないでしょうか。
 そりゃ,ミニコンポでハイエンドオーディオみたいな音がでたらたまげますよ? でも,Spの性能からいって無理ってもんでしょう。96/24の音源でどの程度の環境ならどのくらいの既存のCD再生環境を射程に入れることができるのかが肝心だと思うんですよね。とはいえ,音源売っている側が公式に,ミニコンポでも○○万円のコンポと同等の音がでるとか言い出したら末期ですけどね(爆)。

 現時点での高音質配信は評価する側の環境がほとんど整っていない現時点では,圧倒的な高音質さを提供しなければ,「この程度じゃ聞き分けられないしCDでいいや」みたいな潮流を作ってしまう可能性もあります。なかなかに茨の道…。

 そんなわけで,個人的には高音質な音楽配信は売り方に一工夫必要であるように思うのですが,今後どのようなマーケティング手法が登場するのか,楽しみです。

高音質配信のジレンマ」への6件のフィードバック

  1. 通りすがり

    高音質ソースが欲しいなら自分で録音するしか無いですよ。
    超音質の雅楽ソースなら無料配布してるので世の中に出回ってるはずです。いずれ触れる機会があると思います。

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  2. えるえむ

    通りすがりさん,コメントありがとうございます。
    エントリ本文の趣旨は高音質ソースがほしいという意味ではなく,機器のグレードの差が埋まる程の高音質な録音というのは聴いたことがないし,難しいのではないか,というものです。

    また,超音質というのはネットの流行語のようなものだとおもいますが,一般的には元の信号をいじって立体感を出したり,それこそ安価な再生環境での再生を念頭にエフェクトをかけたものだと思います。もっとも,通りすがりさんは「超高音質」を省略されたつもりなのかもしれませんが,ご発言からはなんとも判断しかねます。

    雅楽のCD規格以上のソースなんてあるんですね。存じませんでした。ネットでちょっと調べた限りでは,発見できませんでしたが,探し方が悪かったのかもしれませんね。

    返信
  3. PSB

    私も通りすがりですが、よくブログを拝見させてもらってます。
    音楽を作る仕事をしています。
    内容はCMやメジャー流通もののアレンジ等が主で、時にはミックスやマスタリング等も行います。

    ご存知だとは思いますが、現在の音楽製作はそのほとんどの工程をMacやPC上で24bit96khz(または32bit浮動少数や192khzや48khz)で行います。で、それをプレスの最終段階で16の44に落とします。このへんは映像や写真なんかも同様ですよね。

    しかしこれは半ば儀式のような工程で、勢作サイドとしては、今まで高音質で製作してきたものを最後の最後に狭い箱に押し込めるんだけどね、という何かあきらめの境地が常にあります(笑。後は単純に一手間ですね。ディザの問題なんかもあって、マスタリングでは24bitをDA変換してから、ものすごく高級なアナログ機材を通して16bitに受けてAD変換、みたいなこともけけっこうやります。そう言った落とし込みの手間をひとつさぼれば、大抵の音源は必然的に24の96の所謂高音質音源と同じ量子化ビット、周波数になる、という風に言ってもよいと思います。

    もちろん16の44に押し込める独自の技術論なんかや、最近では配信用のマスタリングなんかも、エンジニア各氏が個々で煮詰めてはいます。また赤川新一さんのようにSACD独自の高音質な音源のミックスエンジニアリングみたいなものを考えてる方もいらっしゃると思います。ですが、大抵の製作サイドの根底にあるのは「24の96であろうと16の44であろうといい音で鳴るように作ってる、そこで印象が変わっちゃうのはエンジニアリングが下手なんだよ」みたいな思想のような気がします。ですから、エントリの「環境を打破する優秀録音」に関して言えば、そこまで派手な違いを感じさせる製作というのは想像すらできないです。たった二つのスピーカーを基準に考えれば、ですけど。

    余談にはなりますが、YAMAHAのNS10Mというモニタースピーカーがエンジニアに支持されるのは、「あれで作っておけばどんな再生機器でも平均的に大体同じように鳴ってくれる」という理由が大半だと思います。さらにポップスなんかのミックスだとSONY製のラジカセとiPodの視聴、テレビなんかも最終確認用のモニターに使います。昔のアメリカではカーステレオでもチェックしていたようです。

    製作の現場は、大多数のターゲットの「一般的な日常機器全般での90点の再生」を意識していると思います(昨今の音圧至上主義の問題もここに帰依すると個人的に感じます)。ですから、受け取り手の平均的な環境次第で高音質の基準は根こそぎ変わると思います。PCは製作でも使うわけですし、受けとり手もそれで視聴するなら、ハード以外ではストレスフリーになる可能性もありますしね。CDプレスする前の生ファイルが本来の製作意図のファイルという考え方もできます。そういう意味で今回のエントリは面白い視点だと感じました。

    まとめられずに長文で大変申し訳ありません。ブログ、いつも参考にさせていただいてます。

    返信
  4. えるえむ

    PSBさん,コメントありがとうございます。
    私自身長文になりやすいですし,私は長文を読むことが全く苦ではないので,ありがたく拝読いたしました。
    どこを切り取っても大変共感できる内容ですが,特に印象に残った点について,コメントさせていただきますね。

    >大抵の製作サイドの根底にあるのは「24の96であろうと16の44であろうといい音で鳴るように作ってる、そこで印象が変わっちゃうのはエンジニアリングが下手なんだよ」みたいな思想のような気がします。

    おっしゃるように,マスタリング行程に携わるエンジニアさん方は,最終的にどのようなビットレートに落とし込まれるとしても,プロとしての仕事はきちんとされると思うんですよね。
    CD規格だからいい音にできません,満足行きません,なんていうのは,エンジニアリングの不出来を開き直っているようで,おいそれと共感することはできません…。もしくは,アーティスト側がまともなエンジニアに仕事を頼めていないとか,アーティスト本人の卓録レベルのバウンスで話にならないとか(爆),妙なことを考えてしまうかもしれません。

    24bit/96kHzだから高音質なんです,という言い方は,S/N比が-○○○dBだから優れたアンプですとか,全高調波歪み率が0.○%だから高音質なんです,みたいなスペックマニアの発言とほとんど変わらないと思います。
    もちろんスペック上の特性を追求することが悪いという意味ではありませんが,箱が大きければ大きい程よい,SACDならなんでも音がいい,みたいな論調の意見が蔓延することが,結果的に制作サイドの首を絞めることになるのではないかと懸念するわけです。
    ○○はSACDをリリースしてくれるから音質にこだわっている,みたいな。その実,中身はPCMをDSDに変換しただけですとか(爆)。

    最近はビジュアル機器でも,液晶テレビなんかは,倍速駆動競争みたいのをやっていますね。秋葉原のヨドバシカメラでは,各テレビのパネルに,120Hzとか240Hzとか書いてあります。ほとんど数字が多ければいいみたいなノリです。
    売る側は楽できるからいいですが,そういう売るために必要な物語の筋書きを作るために数字が踊る,みたいな状況は本質的に良いものを見失っていく(見つける能力を失う)ことになると思うのですが…。

    おっと,話が横にそれました。
    結局,音作りのエンジニアリングというのは職人芸だとおもうので,どんな環境でも,その人からしか出ない音というものに集約されていくような気がします。
    CDでリリースした(これまでの)音源と,音楽配信でマスタリング前の音源を比べた時に,マスタリングエンジニアの手腕が真に評価される日が来るのかもしれません。
    腕の良いエンジニアさんは,たとえ音楽配信が主流になっていったとしても,必ずその技術を生かすことができるように思います。

    >YAMAHAのNS10Mというモニタースピーカーがエンジニアに支持されるのは、「あれで作っておけばどんな再生機器でも平均的に大体同じように鳴ってくれる」という理由が大半だと思います

    >製作の現場は、大多数のターゲットの「一般的な日常機器全般での90点の再生」を意識していると思います(昨今の音圧至上主義の問題もここに帰依すると個人的に感じます)。

    10Mは音がいいのではなくて,10Mが良くも悪くも標準的なのだという話は,ごもっともだと思います。
    一部のエンスーなマニアが使うような機器をターゲットにした,ある意味偏った録音というのが,結果オーディオファンから優秀録音盤としてもてはやされているのかもしれませんが,本当に素晴らしいのは,どのような環境でも一定の音質を保ち,それでいて伸び代のある録音であることに間違いはないでしょう。

    >CDプレスする前の生ファイルが本来の製作意図のファイルという考え方もできます。

    CDプレスで音が変わるよ!という一部のエンジニアさん方としては,音楽配信が軌道に乗ってこそ,はじめてエンジニアリングの成果を本当に聴いてもらえるようになるのかもしれませんね。
    ただ,今度はFLACじゃだめ,AppleLosslessじゃだめ,とかって話になりそうで,そうなるとDRMがらみで難しいだろうと思います。

    制作環境も再生環境もPC・Macというケースは今後増えていくとおもいます。PCはますます多機能化していっていますし。
    今後は,素の状態のPCが音が悪いということを前提として,それをどうやって底上げしてオーディオ機器と連携させていくかという点がポイントになってくるように思います。
    現状では,ポータブルオーディオやヘッドホンオーディオのほうが,PCとうまく結びついていっているようですが,今後はシンプルで安価なUSBオーディオインターフェースが人気になるかもしれませんね。

    返信
  5. PSB

    >もしくは,アーティスト側がまともなエンジニアに仕事を頼めていないとか,アーティスト本人の卓録レベルのバウンスで話にならないとか(爆),妙なことを考えてしまうかもしれません。

    このへんは非常に耳が痛いところです。
    ただ製作のバジェットがすさまじく下がっていたり、老舗のいいスタジオがドンドンつぶれていってる現状を鑑みるとなんとも言えない気分になりますね。これからっていう若いクリエーター(私も若輩ですが)には当然予算が回らないですしね。業界構造的な問題かもしれません。いずれにせよ規格媒体以前の問題であるところはおっしゃる通りですよね。

    >CDでリリースした(これまでの)音源と,音楽配信でマスタリング前の音源を比べた時に,マスタリングエンジニアの手腕が真に評価される日が来るのかもしれません。

    異論がたくさんあることだと思うのですが、あえて言ってしまうと、マスタリングエンジニアの仕事ってオーディオマニアの方に一番近い内容だと思ってるんです。ベクトルが「他人」に向いてるのか、「自分」に向いてるのかという違いで(マスタリングエンジニアの意識する「他人」というのは、視聴者、アーティスト、商業クライアント、ディレクター、スタッフ、もしかすると社会的意義までかなり広く煩雑な「自分以外」になるとは思います)。2mixの音源のバランスを最良にする、という大きなワークフローは一致してると感じます。

    実際に私の関わった範囲のマスタリングエンジニアの方々だけでも、Allegroのパワーケーブルを敬愛してたり、「ルビジウムクロックは世界が違うよ!」みたいなコトを言っていたり、スタジオの庭にアースの穴も掘りますし、分電盤のブレーカーのメーカーも何社か試したりもしてました。電源まわりに関心がない方は皆無だと思います。

    突き詰めて乱暴に言ってしまうと、作品が世の中に出る手前で、ライトユーザーにもコアユーザーにもある程度納得できる舵取りができる耳を持ったオーディオマニアが、既に一回音の作りこみをやっている、とさえ言えるのかもしれません。

    ただ、現代におけるほとんどの音楽作品というのは集団芸というか、受け渡し産業的な構造を持っていて、プレス前提のマスタリング←マスタリング前提のミキシング←ミキシング前提のレコーディング←レコーディング前提のプリプロと言ったグラデーションによって構築されていますし、それぞれに別のエンジニアが介在してたりしますよね。その最後の駒をひとつ外すというのは製作側にとっては勇気がいることなのかもしれません。配信というのはとにかくいろんな可能性ができるものですねぇ。

    ちなみに昔はレコードのカッティング・エンジニアが神業のような耳を持っていた、っていう話もよく聞きますね。実際私のCD用マスタートラックは、レコードにする段階で超高域をすさまじい勢いでロールオフしてました。大抵の最近の作品はそれをやらなければ針飛びをしてしまうらしいです。もともと軍用に開発されたマキシマイザもレコード・カッティングの針飛び防止用にいろいろと工夫されて使われたという話も聞きます。

    配信用のファイルの話に関しては、一番直接的なのは24の96のwavになりますが、おっしゃるとおりDRMがらみで言うと、いろいろと難しい。最上段まで上って、ゲイツとジョブズ(とそれぞれの取り巻き)次第という非常にきな臭い嫌な感じの話になってきて、考えるのもイヤになりますね(笑。

    それと高音質回帰の風潮はいつか必ず起こると思います。倍速駆動競争の話とも被りますが、「写るんです」で誰も気にしてなかった写真の画質を、デジタルで画素数信仰が出てきたとたんに、突然みんながこだわりだした経緯とかを考えると、24とか96とか数字にこだわったタクティクスもあながち間違いじゃないのかな、とも思ってしまいます。

    ただ、エントリにあるPCオーディオまわりの充実と高音質への喚起は茨の道ですねぇ。PCまわりにはお金かけたくない世間の空気ってありますからね。あとはとりあえずmac買って、「全てスマートに解決ってことにしちゃいたい」みたいな空気とか(笑。個人的にCD以上の恩恵を受けられるっていうわかりやすい派手さは、もうサラウンドの擬似立体ファイルとそのシステムしかないと思うのですが、業界構造上まだまだ先になりそうですしね。とりあえず何かしらのブレイクスルー的なUSBインターフェイスが出ると、配信に対して面白い影響があると私も思います。

    また、気になるエントリがあったら「なるべく簡潔に」コメントさせていただこうと思います。

    返信
  6. ピンバック: えるえむ

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