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Blu-spec CDを聴く 3枚目

▼Blu-spec CDの技術的特徴(その2)
【Q】リッピングによってメモリやHDD上にデータを格納した場合には,ディスクの品質の違いはどのような変化になりますか?
【A】理論的には違いはないので,公式な回答としては「品質の違いは失われる」ということになります。なお,コンピュータ上のデータを再生する場合には,(個人的には)メモリに使われているクロック,HDDに使われているクロック等,ハードウェアのクロック精度の影響が相対的に大きいという印象を持っています。

【Q】Blu-spec CDが通常CDと異なる音質であるとすると,その原因には何が考えられますか?
【A】ピットジッターに由来する音質の変化については,現状測定する手法がなく,聴感で判断する他ないと考えています。仮説の域を出ませんが,CDプレーヤーは各部の電源が共通化されているので,グラウンドを媒介としたジッター量の変化,ノイズ量の変化が影響しているのではないかと予想しています。

【Q】従来はプレス工場によって音が違うことを経験したアーティストやエンジニアが工場やラインを指定することがあったそうですが,Blu-spec CDはプレスマシンごとの品質のばらつきはどの程度ありますか?
【A】CD登場初期にはライン毎のCDの品質のばらつきが顕著だったため,たとえば奥田民生氏や大滝詠一氏らはプレス工場を指定して納品をしていました。しかし,5年前ほどから,SONYではプレス品質向上を目的として,全てのプレスマシンに一台ずつアイソレーショントランスを導入して工場全体の電圧変動を極力抑える等の対策を講じてきました。その結果,現在ではプレス工場の指定はほとんど無いほどに,品質が均一化・向上しています。

▼Blu-spec CD技術の展望
【Q】価格が高く設定されていることについてはどのようにお考えですか?
【A】制作側でCDの値段が上がることに抵抗を持っている方はいらっしゃいます。コストはできれば下げたいものの,現状ではどうしても制作方法が非常に高コストにならざるを得ません。たとえばBlu-spec CD用のポリカーボネートを装填するマシンは制作のたびに部屋に搬入し,そのたびに清掃しなければならないといった状況です。

【Q】Blu-spec CDの登場により,SACDは生産を終了させる予定はありますか?
【A】SACDの生産を終了させる予定はありません。Blu-spec CDと比べても,SACDの音質上の優位性は揺るがないと考えています。

【Q】現在は限定的に生産しているBlu-spec CDですが,最終的に全CDをBlu-spec CD化する予定はありますか?
【A】売り上げ次第では,全てのCDをBlu-spec化することもありえます。

■ 以上です。なかなか興味深いお話をきくことができました。今回はソニーミュージック コミュニケーションズ執行役員で制作技術本部の渡辺隆志本部長をお招きして行われた企画でしたので,非常に内容の濃いイベントになったように思います。またこのようなイベントがあれば是非参加したいです^^

Blu-spec CDを聴く 2枚目

▼Blu-spec CDの技術的特徴
【Q】高分子ポリカーボネートとありますが,ポリカーボネート自体が高分子素材ではないでしょうか。その趣旨はどのようなものでしょうか。
【A】通常のCDに比べて,高分子度の高い素材を使っています。Blu-spec CD用ポリカーボネートは,通常CDのものとくらべて,成形条件は厳しいものの,成形条件を満たせば成形がしやすいことが特徴で,きれいなピットを作ることが出来ます。

【Q】ピットジッターは具体的にどの程度減るのでしょうか?
【A】たとえば,ガラスCDはポリカーボネートCDに比べてピットジッター値が低いのですが,同じポリカーボネートのCDである通常CDとBlu-Spec CDとを比較しても,測定限界以下程度の違いしかありません。

【Q】ブルーレイレーザーダイオードと光ファイバーを使ったカッティングと,高分子ポリカの採用以外に取り組んだことはありますか?
【A】CD生産上の取り決めのなかできる限りですが,他にも品質向上につながることを実践しています。たとえば,CD表面の膜厚を通常CDに比べて厚くしてあります。テスト用に4種類のCDを作り,比較視聴して複数のエンジニアが好ましいとした数値をもとに調整してあります。

【Q】製品テスト時にはどのようなソースを使って試聴されましたか?
【A】スタジオではボーカルの質感を重視しました。よくリファレンスで使われたのが,郷ひろみのCDです。スタジオでチェックする限りでは,より生の声に近い音になっています。

【Q】SACDハイブリッドディスクと通常CDとではどちらが高品質ですか?
【A】ハイブリッド層は半透過となっているので信号の乱反射が多く,ディスクの品質としては通常CDのほうが高品質といえます。

【Q】Blu-spec CDは楽曲やジャンル毎に相性はありますか?
【A】特定の曲やジャンルを基準として音作りをしたわけではありませんので,得手不得手はなく,あらゆるジャンル・楽曲で高品質化できると考えています。

■ つづきます。

Blu-spec CDを聴く 1枚目

 最近各社が力を入れている高品質CDについて,SONYの方を招いてBlu-spec CDと通常CDを比較視聴するというイベントがダイナミックオーディオ5555HAL3で行われました。
 以前からこうした高品質CDについて関連エントリを書いている者としては是非参加したいということで,参加して参りました。
 今回はこの件についてご報告をしたいと思います。複数回連載です。

 今回は,Blu-spec CD検証ということで,従前一般的に疑問視されていた点についてご説明いただいた内容となります。なお,Q&A方式で記載しますが,やりとりは読みやすいように編集してあります。内容には漏れや私の記憶違いなどがあるとおもわれますので,本件に関するエントリを根拠にSONYに問い合わせをするといったことは控えていただけますと幸いです。

 録音や制作現場にも造詣が深いHAL III島さんのフロアでは,こういった制作側のイベントも企画できればと考えているようですので,ご関心のある方は是非参加してみてはいかがでしょうか。

▼Blu-spec CD企画の背景
【Q】他社の高音質CD製造技術の後に発表されましたが,CDの高音質化の潮流に乗る形で企画されたものでしょうか。
【A】そうではありません。他社の高品質CDの手法もテストディスクを作成して比較しましたが,Blu-spec CDは,SONYのプレス工場からのBlu-ray Discの製造技術を生かせないかという提案をきっかけに独自に企画されたものです。

【Q】企画に当たってこだわったところはどのような点でしょうか。
【A】スタジオクオリティに出来る限り近づけたものを作るためには,ディスクの品質に磨きをかけるのがよいのではないかという考えにたち,音作りの一環としてのディスク製造ではなく,技術的観点からのディスク品質の向上に注力しました。「高音質」ではなく,あくまで「高品質」であるということがポリシーです。

【Q】Blu-spec CD用にマスタリングをするといったことはありますか?
【A】あくまで高品質なディスクを作ることが目的で,音作りのための手段ではありませんので,Blu-spec CD専用のマスタリングを施すことはありません。出荷時には必ずバイナリコンペアを行い,通常CDとバイナリ値が全く同じであることを確認後に出荷しています。

■つづきます。

ハイエンドショウ2009Spring

 行って参りました。ハイエンドショウ2009春!

 …正直,オーディオって未来が暗いなぁと思わざるを得ない状況が参加者にひしひしと伝わってくるイベントとなったようで,大変興味深かったです。

 さて,そんなわけで,ちょっと気になったブースについていくつか。

▼完実電気
 個人的に関心が高かったPS AudioのPerfectWaveシステムですが,完実電気のブースの方は社員同士での会話に熱心な状況で,ブースに立ち寄った参加者にきちんと自社製品を説明しようという心構えをお持ちでないようで残念でした。
 パンフレットも何もなく,販売価格も販売時期も未定ということで,売る気がないのかもしれません。

▼イー・エム・ティー
 廉価版のモデルが出るようですが,スロットインのドライブになってしまうようなので,PCオーディオに執念を燃やす方には全く受けないのではないかと思います。

▼ポニーキャニオン
 エンジニアの方がいらしていたようで少々お話させていただきました。HYPS(ヒップスと読むらしいです)の限定版を販売していましたが,どうやらメモリーテックからガラスCDを作ろうという話も出ているようです(ただ高額商品になってしまうので販売することに心理的抵抗があるとかw)。
 プレスにはかなりこだわったようで,工場だけでなく,プレスするラインも厳選したそうです。こういうプレスのラインを選ぶという話は,それだけで聞くと素晴らしいこだわりだと感じられますが,反面プレスのラインを選ばないCDというのは品質にばらつきが出るということなのかとも思われるので,難しいところですね。
 少なくとも,エンジニアの方のお話を総合するに,HYPSの企画に携わった方々はプレスで音が変わるということについては肯定しているように理解しました。

 なんだかテンションが下がってしまったのか,あまりよい感想がないのが申し訳ないです…。うーむ。

ピットジッターとクロックジッター 7ps

▼改めて,正面から理由を示す大切さについて
 これまで,CDとCD-Rとの比較に限った話であれば,プレスか色素かという見た目の違いがありますので,「音が違うかもしれない」というイメージを持ちやすく,CD-RはCDのコピー品に過ぎないので,何かしら劣るだろうというイメージも手伝って,とりあえず音はちがいそう…ということで,音が違う理由をあやふやにしていても,なんとかイメージ戦略で売ることができました。

 しかし,高品質素材CDと通常CDの比較はそうはいきません。ピットジッターや反射率が違うという状況はCD-Rとの比較と共通とはいえ,これらはどちらも「プレスCD」です。当然,一般的には「同じ音がするはずという」イメージを持たれやすく,CD-Rの場合と状況が異なっているように思われます。

 ましてや,現在はオーディオに興味が無くてもある程度自由にPCを操作できる能力があれば,データを計測することはできるわけですから,家庭でお手軽に比較できる検証で疑問を持たれてしまうレベルの説明にとどまっている状況は,害悪のほうが大きいように思います。
 これは業界の売り方の下手さも手伝っているとは思いますが,実際のところ,少なくともweb上では高品質素材CDについて疑問視する見解が多いようです(特に従来オーディオに関心のない層)。これでは,誠実に光ディスクの品質を追求されている現場の方が報われません。

 もちろん,山本さんもご指摘の通り,20年前の時点でのCD規格は非常に高度な技術の結晶であったように思いますし,良く練られたロジックで一定の品質を広く提供することが可能だったからこそ,全世界に普及したものだとおもいます。
 かないまるさんがデジタル信号もアナログ波形で伝送されているということをおっしゃって以来,デジタルもジッターで音が変わるのだということが一部の方には認知されてきましたが,だからといって何でも有りというのは思考停止以外の何者でもありません(この点はkittさんもご指摘になっていますね)。
 変わる変わると強調しすぎることは,如何に技術的に変わらないように規格策定に携わった方々が努力されたのかということを軽視する風潮に繋がります。見方を変えれば,音が変わらない(変わりにくい)ということは,素晴らしいことです。

▼最後に
 以上,ピットジッター関連の話題について書かせていただきました。
 プレスメーカー各社は,現時点で最高の品質を届けるために,CD規格の現実的課題を指摘して(これだけで規格そのもののすばらしさを讃えることになります),これを克服する(もしくは対処する)方法を提供すると自信を持ってアピールされるべきだと思います。
 そうした姿勢が,長期的には技術への信頼に繋がり,結果消費者も生産者もメリットを享受することになるのではないでしょうか。

 一連のピットジッターがらみの話題は一旦おわりとさせていただきます。私も勉強中の身ですから,不足のある部分も多々あるかとはおもいますので,至らぬ点はご指摘いただければ幸いです。

 長文をお読みいただき,誠にありがとうございました。