ケースと振動対策

最も重視すべきは用途に合わせた構造

市場には様々なケースがありますが,PCオーディオにおいても,まずはサイズ・形状が最も重要でしょう。フルタワーを使うということはまずないと思いますが,ミドルタワー,MicroATX用ミニタワー,横置きタイプからおおざっぱに選んだ後,使いたいパーツで絞り込みをすることになると思います。
特に,マザーボードの選択,電源の選択,リッピング用ドライブの有無はケースの形状にかなり影響してくると思いますので,うまく選んでいきましょう。

ケースの剛性を重視しよう

おおざっぱに構造が決まりましたら,ケースの剛性が高そうなものを選びましょう。webサイト上の能書きだけでは殆どわからないことが多いですので,PCショップで実際にケースを(軽く)叩くなどして,共振の有無を確かめるのがよいと思います(壊さないように気をつけましょう)。
ケースの素材以前に,剛性の高さが音に影響しますので,ぺなっぺななアルミケースは避ける方が良いように思います。
最近では振動を抑えるためにHDDにブッシュをつけるものがありますが,ああいったものよりは,HDDをがっちりとねじ留めしてケース全体の剛性で振動を抑える構造のほうがお薦めです。

剛性が重要な理由

なぜケースの剛性を重視すべきか疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。
まず,リッピング用のドライブを内蔵している場合,ケースの剛性が足りなければ,読み取りそのもののエラー頻度が高まることは誰でも予想が付くことでしょう。まずは正しくデータをリッピングするというのがPCオーディオの至上命題です。ですから,最低限のケースの剛性はリッピングの際にも必要となります。

【振動はI/Oレイテンシを増加させる】

http://jp.youtube.com/watch?v=tDacjrSCeq4(音が出ます。注意。)

データセンターにあるサーバーに繋がっているHDDに向かって大声で叫ぶと,監視モニター上でI/Oレイテンシ(遅延)が大幅に増える(つまり,読み書きにエラーが生じてリトライしているということ)のが確認できるという動画です。PCオーディオというのは直接HDDにあるデータを再生するわけではありませんし,当然各所でバッファされたものが出てくるわけですから,HDDに振動を加えると音が悪くなると断言できるものではありません。
しかし,最近はI/Oレイテンシを短縮することが音質改善につながるという見解を唱える方もいらっしゃいます。DAW用途,特にDTM用途であればPCIレイテンシを短縮する方が結果レイテンシの短縮にもつながりますから,望ましいのは確かです。
また,I/Oレイテンシを重視しない考え方にたったとしても,I/Oレイテンシが増加するということはそれだけHDDに負荷が掛かっていることの証左です ので,結果的に長時間読み書きの動作をすることになり,電源への負荷は増えることが想像できます。場合によってはデータの断片化も進むかも知れません。
これまで事後データを出力する際には全く問 題にならないにならないであろうと思われてきたSpからの振動の問題が,リッピング方式でも影響を及ぼすかもしれない,という点で,I/Oレイテンシの問題は新しい発見といえるでしょう。

【ネットワークオーディオとケースの剛性】

この点,データをリッピングし,記憶媒体に保存し,オーディオインターフェースに渡す,というPCの動作にはクロックが一切音質上影響しませんから,少なくとも正しく保存できれば,リッピングマシンとしては十分であるといえます。したがって,ネットワークオーディオにおいては,正しくリッピング出来るのであれば読み取り用マシンにそれ以上のケース剛性は必要ではない,ということがわかります。

問題は,PCをトランスポートとして使う,ということにあります。
たとえばゼロスピンドルマシン(回転体がないPCのこと)なら問題は解決するでしょうか。この場合ドライブはリアルタイムに信号を読み取って出力する必要はありませんし,HDDのような振動源もありません。振動が音質上影響を及ぼすのは一見筋が通らないようにも思えます。

しかし,振動源は内部だけではありません。音楽を鑑賞する以上,室内にPCがあれば当然音圧をうけますし,スピーカーの振動が床を経由してPCまで到達します。
そして,デジタルオーディオにおいては,実は剛性不足からくる振動がデジタルオーディオ信号の品質を低下させるといわれています。
まず,トランスポートとして使用する場合には必ずデジタルオーディオ規格の信号を出力する必要があり,この出力にはクロック信号を載せなければなりません。そして,クロック信号を生成するためには水晶発振器を使用します。全てのオーディオインターフェースには必ず(水晶)発振器が回路上に存在し,PCのクロックとは別個に動作します。
ここで,クロックを発生させる発振器というのは電圧をかけて水晶を発振(振動)させることで動作しています。この発振器が外部からの振動を受けるほど,理想的な発振状態から遠ざかってしまうわけです。
クロックとジッターという概念が切っても切れないことは既にご説明しています(読んでいない方はそちらをまずどうぞ)のでピンと来た方もいらっしゃると思いますが,こうして発振器の動作が理想状態から遠ざかることでクロックが揺らぎ,ジッターとしてDACに伝わる,結果音質の低下を招く,という推論が成り立ちます。現在はこの見解が音質の変化を肯定する立場では最も有力といって良いでしょう。

【Wordsyncは振動の影響を軽減する?】

WordsyncによりPCトランスポートをSlave動作させるメリットがここでも見えてきますね。

アルミかスチールか

一般に,スチールは磁性体でかつ安く使い勝手の良い素材なので,EMI対策として使われます。したがって,EMI障害が起きにくいであろうパーツ選定を進めない限りは(VCCIやFCCをチェックするなど),ケースで対策する必要がありますから,その場合はスチールケースにするのがよいでしょう。

磁性体が音質に与える影響については,あまりはっきりとした根拠はありません。現状では定性的な議論が主で,定量的にその影響を示したものは殆ど無いのではないかと思われます。拙Blogでも磁性体についての見解は定性的な議論をベースにしているということをお含み置きください。

これに対して,個々のPCパーツでも電磁波対策を進めていく場合には,アルミ製ケースにするとすっきりした音質傾向が得られると思います。個人的にはスチール製ケースはちょっと詰まったような音がしますが,同じような印象をお持ちの方はアルミケースも視野に入れると良いと思います。お薦めのアルミケースメーカーとしては,現行品としてはOrigenAE,SilverStone,Lian-Liのもの,ディスコンになったものとしてはAbee,JapanValue,星野金属のものが良いでしょう。
なお,フレームがスチール,エンクロージュアがアルミ,というPCケースは剛性が足りずEMI対策も不十分という最も微妙なパターンになりがちですので,私はお薦めしません。

さらなる振動対策

振動に強い枠組みを考える

オーディオで使われる周波数としては比較的高い周波数で信号を制御するデジタル領域においては,クロックの正確性(≒低ジッター)がとても重要です。上述の通り,そのクロックを作り出す水晶発振器は振動に非常に弱いことが知られています。
そのため,内部の震動源となるものをなるべく減らしつつ,外部からの振動を伝えない構造,振動を出来る限り速やかに減衰させる構造が求められます。
PCはHDDやファン等の震動源がそもそも内蔵されている場合もありますから,オーディオ機器でのセオリーはあまり通用しません。マシン構成によってはPCオーディオ独自のノウハウが必要なこともありますので,試行錯誤が必要でしょう。

というわけで,対処法としてベターなこととしては,

  • WAV保存用HDDをSSD等に交換する
  • やむを得ずHDDを使うなら制震しまくる
  • HDDを外付け化する
  • リッピング用ドライブを制震しまくる
  • 思い切ってリッピング用ドライブを外付け化する

といったことが考えられます。

たとえば,HDD程にギリギリ非接触なわけではないCDも,逆にピックアップがふらふらなわけで,これはピックアップ・ヘッドを使ってデータを読み取りながら逐次再生するオーディオの限界ともいえます。
確かに,厳重なシャッターをつけたCDPは数多くあり,これらは空間を経由する音圧の影響を考慮した物ですし,重量級のCDPが数多くあるのは,振動対策の一環なのでしょう。
しかし,音量によってはSpからの振動はそういったものでは防ぎきれないレベルになりますから,根本的解決には至っていません(CDPの場合は等倍速読み込みなので,メカそのもののもたらす自己振動の少なさはメリットとなっていることでしょう)。

そこで,振動が記憶媒体に与える影響を最小限度にする方法は,「データの読み書きに音圧・振動の影響を受けにくく,再生時に音圧・振動の影響を受けにくい構造のシステム」を作る,ということになります。

たとえば,リッピング方式データは別室に格納+ゼロスピンドルマシンで再生,といった方法は振動対策におけるPCトランスポートの一つの回答例といえるでしょう。
拙BlogのオーディオPC製作例でも,ブートデバイスはCFやSSDとし,HDDはWAV格納用としています。こちらも,SSDのパーティションを切っておいて,リッピング保存先をCFにして,そこからコピーするようにすればリッピング時のドライブの振動は保存過程に事実上影響せず,本気で再生するときにはSSDに一度ファイルをコピーしてから再生すれば記憶媒体の振動対策はかなりのレベルということになりましょう。

ただし,気をつけていただきたいのは,何にせよ振動だけで全て説明できるわけではないことです。結局はトータルでの視点のバランスが重要で,それはなかなか一朝一夕には解明できないことのように思われます。デジタル領域なので理詰めでいきたいところですが,悩ましいところではあります。

震動源があるうちは振動を取ることに専念する

特に,振動吸収はかなり過剰に行っても問題が無く,むしろその方が良い印象を受けます。
例えば,拙宅のマシンには,fo.Qが多用されておりますが,オーディオ機器に使った場合にありがちな,「音が死ぬ」現象は今のところ感じられません。 オーディオ機器と違って,PCは個々に音質的な吟味が行われているわけではありませんので,音質調整という意味での対策は全く行われていないと言って良い 状態です。好き放題やってみましょう。

インシュレーター選び

インシュレーターも,筐体の強度が足りないためか,ハード系のみにしてしまうと相当ハイ上がりの音になってしまいます。ソフト系で適宜振動を吸収させつつ,内部損失の高い素材(たとえばCFRP)でうまく処理してやると良いようです。
出来れば,筐体についているインシュレーターは外して違うものを取り付けましょう。付属品はゴム脚やスポンジなので,音質上はかなり不利のようです。

議論状況

PCオーディオにおけるケースに関する主張として,目立った見解の相違はみられないといってよいでしょう。

【参考となる外部サイト】
○ケース (シャーシ) の音質
http://kanaimaru.com/pc5_yakipaso/pc5-7.htm
○静けさを求めて・・・
http://park19.wakwak.com/~soundtherapy/audio/musicpc/musicpc06.htm