ジッターが増えると何が起こるのか

ジッターがアナログ領域に及ぼす影響

これまでジッターが多ければ多いほど不正確なD/A変換となり,ジッターが少なければ少ないほど正確なD/A変換となると説明してきましたが,では正確な変換と不正確な変換とではどの程度の差があるといえるのでしょうか。

ジッターが聴覚に及ぼす影響については,これまであまり議論されてきませんでした。議論されてこなかった理由としては,従来は一応十分であろうとされてきて問題が表面化しなかったということでもありますし,学術的な意味ではあまり重要度が高くないのかもしれません。あとは測定が非常に難しいということも要因の一つでしょう。発振器のジッターそのものを測定するには,1000万円級のジッター測定器が必要です。

そんな中でも,数はそう多くはありませんが,ジッターが聴感に与える影響について研究した論文もあります。複数ありますが,いくつかwebでみつかるものをご紹介しておきます。

聞き分けを肯定する見解

ジッターの大小を人間が聞き分けられるのかについて肯定的に考えているものとしては,『ディジタル・オーディオ・インタフェース(AES/EBU)のjitterと音質の関係』(赤堀肇,石川智治,小林幸夫,宮原誠 電子情報通信学会技術研究報告. EA, 応用音響 99(260), 1-8, 1999-08-27)があります。赤堀氏は技術研究報告の後日本TIに入社されたようで,後掲のEDN Japanに寄稿されています。
http://ci.nii.ac.jp/Detail/detail.do?LOCALID=ART0003685828&lang=ja

上掲の論文は一般的には入手しにくいものですが,赤堀氏がEDN Japanに寄稿された見解によれば,THD(全高調波歪み率)+N,ダイナミックレンジ,S/Nの項目で,ジッターによる顕著な影響が出ているケースがあるとしています。

(『オーディオ品質とクロックジッター』(赤堀 肇 http://ednjapan.cancom-j.com/issue/2007/09/6/28/4 (2007)より引用)

また,個人的には『AD/DA変換器における振幅および周波数変動の測定』 (西村 明、小泉 宣夫, 電子情報通信学会技術研究報告, HDA01-6, pp.6-16, (2001))も示唆に富む内容と思います。
http://adlib.rsch.tuis.ac.jp/~akira/hit/papers/hda0105.pdf

聞き分けを否定する見解

ジッターの大小を人間が聞き分けられるのかについて否定的に考えているものとしては,『ディジタル・オーディオ機器におけるサンプリング・ジッターの諸様相とその要因』(西村 明,小泉 宣夫 東京情報大学研究論集 7(2), 79-92, 2004-02-20)があります。
http://www.ne.jp/asahi/shiga/home/MyRoom/Jitter.pdf
http://ci.nii.ac.jp/naid/110000075770/

クロック用回路とジッターとの関係をみてみよう

http://www.ednjapan.com/issue/2007/09/u3eqp30000014s5w.html

EDN Japanという技術系雑誌に掲載された,『オーディオ品質とクロックジッター』(赤堀 肇)が非常に参考になります。時間がない方のために肝心な部分を記載しておくと,

○再生時の対処策としては、クロック供給回路のジッターを減らす以外に方法はない。以下の方法を採るなら問題は極めて小さくなる。
【その1】クロック発生回路には、PLLではなく、低位相雑音の水晶発振回路を使用する
【その2】クロック発生回路は、DAコンバータの近くに配置する
【その3】クロック発生回路の電源には、ノイズの少ないものを使う
○PLLやDIRにおいては、記録時の対処法と同様に、コストが許すならば電圧制御発振回路としてVCXOを使用する方法が有効。
→ただし,電圧制御発振回路の性能に依存。
○クロックをデジタルオーディオI/F信号とは独立した低ジッターな伝送路で送信側から受信側に与える方法も有効。
→ただし,クロック伝送路からのEMIノイズの発生に気を付ける必要がある。
○受信側でデータをD-A変換する前にいったんFIFO(first-in, first-out)メモリーに記録し、それを水晶発振による低ジッターのクロックで読み出すことでジッターを排除する方法も有効。
→ただし,書き込みクロックと読み出しクロックが非同期の関係にあるため、メモリーのオーバーフローやアンダーフローが発生する可能性。
○D-Aコンバータの入力前に非同期SRC(サンプルレートコンバータ)を配置することで出力側のジッターを減少させる方法も有効。
→ただし,SRCによるデータはあくまでも計算によるものであり、それによる音質の変化は避けられない。

ということのようです。
これまた非常に興味深いですね。以上のパターンを基に,各社のDACの設計思想を探ってみるとおもしろいと思います。クロック改造の際の肝心な部分もわかってきますね。