ジッターはどうして増えるのか

前項では,クロックとジッター(以下,「ジッター」と言います)の関係について軽く触れましたが,本項ではもう少し詳しくみていきたいと思います。
例えバイナリが一致していたとしても,ジッターが多ければ不正確なD/A変換となってしまうと言われたところで,どうしてジッターが増えてしまうのかがわからなければ対策の取りようもありません。そこで,ジッターの原因となる代表的な要素をみていきましょう。

デジタル機器一般で共通の要因

水晶発振器の品質

まず,クロック信号そのものを生成するために,デジタル機器には必ず発振器という部品がとりつけられています。ピュアオーディオ用途やPC用途に使われる発振器の大半は水晶発振器と呼ばれるもので,水晶に電圧をかけることで振動させ,これを基準として使っています。
もっとも,水晶発振器というのは非常に繊細に作られており,本来発振すべき周波数以外の周波数成分も同時に発振してしまいます。特に,本来発振すべき周波数に近い周波数の成分(±1Hz~1kHz)が多く観測されるのが一般的で,こうした本来発振すべき周波数以外の周波数成分(これを「位相雑音」と呼びます)は全てジッターとなります。
ジッターとは「必要な周波数以外の周波数成分が及ぼす時間軸上の波形の位相のずれ」であるとご説明しました。位相雑音を測定することはジッターの量だけでなくその性質を示す重要な指標であるといえます。

「位相雑音」の概要については
○位相雑音とは
http://em-field.jp/reduce-pn/1.html

位相雑音(C/N)に注目したSACDプレーヤーとしてはTAD-D600があります。
下掲画像はTAD-D600に使われている発振器の位相雑音特性です。

テクノロジー:TAD-D600:TAD(http://tad-labs.com/jp/products/d600/technology.html TADL. 2010)

以上のように,そもそも水晶発振器自体のジッターをゼロにすることが出来ないため,トランスポートでもDACでも,それぞれ単体で内蔵されている水晶発振器が持つジッター量以下にジッターを抑えることはできません。
つまり,デジタル機器単体のジッター量の下限は内蔵されている水晶発振器の性能が決めるということになります。

そこで,近年では,水晶発振器の品質にこだわったデジタルオーディオ機器が数多く登場しています。

PLLの品質

水晶発振器が発振する周波数はおおよそ十数MHz~数十MHzのものが一般的です。そのままではデジタルオーディオ用のクロックとして使えないので,割り算等を行って44.1kHzや48kHzといったサンプリング周波数のデジタルオーディオ用クロック信号を作る必要があります。そのために従来から使われてきたのがPLLと呼ばれる回路です。
PLLは他にも,トランスポートから送られてくるデジタルオーディオ信号にDACを同期させるためにも使われます。デジタル機器同士はこの同期作業をしなければ正常に動作しません。

PLLもジッターに直接的に作用しますが,特にPLLの出来が悪いと,水晶発振器が固有に持つジッター量を大幅に上回るジッターを発生させてしまうので,各メーカーの設計の良し悪しが端的に出てしまう部分でもあります。
近年では,PLLを他の回路で置き換える等の工夫をしたものもあり,PLLをいかに高品質なものにするかという点は重要な課題とされています。

PLLの技術的な詳細については徳見憲明さんが書かれたこちらのページをご紹介します。非常に分かりやすく書かれておりお薦めです。PLLのおかげで,デジタルケーブル1本で きちんと動作するデジタルオーディオが成り立たっているといっても良いでしょう。
○PLLについて
http://www.hh.iij4u.or.jp/~tokumi/archive2/PLL.html

電源の品質

水晶発振器にせよPLLにせよ,それらを動作させる電源は非常に重要で,発振器やPLLの位相雑音を増加させてしまうため,結果ジッターの量が増大してしまうことになります。低ノイズ,低リップルな電源により水晶発振器やPLLを動作させることも,近年のデジタルオーディオ機器メーカーが注力している点の一つです。

グラウンド(GND)経由のノイズ

最近注目を浴びているのが信号線のグラウンド(GND)を経由したノイズの影響です。金属製のケーブルを使う場合には必ずといって良いほど問題となります。特にデジタルオーディオ信号はアナログオーディオ信号にくらべて周波数が高く,また水晶発振器はデジタルオーディオ信号よりさらに高い周波数で動作していますので,こうしたノイズの対策も十分吟味される必要があります。
これは,回路基板のグラウンドを経由して水晶発振器がノイズの影響をうけると,位相雑音にノイズの影響がでて,結果ジッターが増加することになるためです。

振動

実は振動もジッター発生の要因とされています。
デジタル通信のためのクロック信号を作る発振器というパーツは電圧をかけて水晶を発振(振動)させることで動作しています。この発振器が外部からの振動を受けるほど,理想的な発振状態から遠ざかってしまうのです。
全てのデジタル機器には必ず(水晶)発振器が回路上に存在するため,可動部品のないDACであっても振動による音の変化はあり得るといえるでしょう。実際に,発振器製造メーカーの現場では,振動が生じない特別な環境化において測定を行っているようです。

こうした諸処の原因について言及したものとして
○デジタルなのになぜ音が変わる?
http://kanaimaru.com/PS3/a1.htm

デジタルオーディオ機器ならではの要因

S/PDIF,AES/EBU特有の問題

本来,ジッターはD/A変換する際の量が問題になるわけですから,DAC単独のジッター量が支配的になるはずというのが自然な発想ではないかと思います。ところが,民生用のデジタルオーディオ通信規格は,そうなっていないのです。

S/PDIFやAES/EBUは,デジタルケーブル1本で接続が済み音が出るようにするため,データ信号とクロック信号を混ぜて通信した上でトランスポート(送り側)がクロックのMasterになり,DACがクロックのSlaveになるという方式を採用しています。デジタル機器同士の同期作業が必要であることは既に述べましたが,Masterとはクロックの基準となる側のことを意味し,SlaveとはMasterを基準に動作する側のことを意味します。
このため,トランスポート側の機器のジッター量が多い場合には,仮にDAC側のジッター量が少なかったとしても,トランスポート側の影響を受けてジッター量が増えてしまう仕様となっています。デジタルケーブルで音が変化して聞こえる例があるのも,こうしたデジタルオーディオ通信方式の仕様が根本的な原因と考えられます。

これを解決するためには,Wordsyncという仕組みを使って外部マスタークロックジェネレーターと呼ばれる機器をMasterとして動作させるか,DACをMasterにしてしまう他ありません。

Wordsyncについても,こ ちらの徳見憲明さんのページがお薦めです。デジタルオーディオにおけるクロックについて,ワードシンクという観点から記載した記事です。数学的知識がなく とも非常に分かりやすく書かれています。
○ワードシンクについて
http://www.hh.iij4u.or.jp/~tokumi/archive2/sync1.html

USB特有の問題

USB-DACやUSB-DDCなどのUSBを使ったオーディオ機器の場合,S/PDIFやAES/EBUなどのデジタルオーディオ通信規格のようにデータ信号とクロック信号が混ざっている状態で通信するといったことはありません。
しかし,USBオーディオデバイスとして広く使われているICの仕様として,USBのデータ通信のタイミングの影響を受けてPLLが動作するため,一般にジッター量が多い機器が散見されるのが現状です。

S/PDIF等の場合と対比させるとわかるように,データとクロックを混ぜて流すことが問題なのではなく,データを送る側に同期してデータを変換する側が動作することがジッターを増加させる原因と考えられています。

この問題を改善したものとして「アシンクロナス(Asynchronous=非同期)」伝送に対応するUSBオーディオ機器があります。アシンクロナス伝送は,USBのデータ通信のタイミングの影響を受けずにUSBオーディオ機器のPLLやクロックが動作するため,ジッター量が少ないのが特徴です。

アシンクロナス方式についてはAyreがリリースしたホワイトペーパーが大変読みやすいでしょう。
○技術資料 アシンクロナスUSBテクノロジー詳細
http://www.axiss.co.jp/Ayre/Ayre_Async_Tech.pdf

また,USBの場合はUSBオーディオデバイスの電源供給も行っている場合が多く,PC経由のDC(直流)電源の品質もリップル・ノイズの点で問題となります。
さらに,USB機器はGNDを全てPCと繋げなければ動作しないので,グラウンドを経由したノイズの影響も懸念されます。

PC用オーディオインターフェース特有の問題

USBを用いないオーディオインターフェースを使う場合には,データのバイナリさえ一致していればオーディオインターフェース固有のジッター量のままS/PDIFまたはAES/EBUでデータが送られるので,PCには特に手当が必要ないと考えるのが自然ではないかと思います。

しかし,実際はPC側の操作(≒CPUの負荷状態)によって,オーディオインターフェースのクロックジッター量が増加する例がみられます。
したがって,PCへの負荷を極力減らすこと,また電源の品質等一般的に水晶発振器に影響が出ると思われる点については対策を施す必要があるといえるでしょう。

Digifaceの計測は 88.2KHzで行っているので、Elgarとはそのまま比較することは出来ない。誤差を公称値で割って率に換算すると、誤差 -0.106739Hzは1.2x10E-6で 1.2ppmの誤差率となる。オッ意外に精度高いじゃない。

次にJiiterであるが、パッと見で Elgarよりバラツキが大きいが、測った周波数が2倍高いので、これは割り引いてやらないといけない。中心値はざっと σ=600μHzと読んで計算すると、6.8x10E-9という値が得られるが、実はこれはそのまま受け入れては問題がある。

グラフの右から3番目のマスはプロットが少し足りないように見えるが、実はグラフの一番上にプロットされており、レンジをオーバーした値が入っているのである。この時、少々必要があって、計測中にパソコンを操作したのであるが、それでクロックが思い切り反応してしまったようなのだ。

PCの操作で容易にクロックが振れてしまうのでは、PCオーディオとしては失格だろう。この問題がマスタークロックで解決するかどうかは非常に重要だと思われる。
『マスタークロックの評価手法について 10.Wordclock クロック改善度測定編(その3)』(たもそ http://tms.plala.jp/audio_2008.html 2008)より引用