本項では,PC的な観点からのジッター対策についてご説明します。ただし,広い意味ではデジタルオーディオの一分野に過ぎませんから,実際にはCDPやCDT+DACのシステムにおいても広く妥当する改善手法となります。
「低ジッターゆえに高音質」の誤解
具体的な音質改善アプローチについて説明する前に,ジッターが少なければ高音質であるという主張について再検討してみましょう。
ジッターが脚光を浴びてからというもの,低ジッターであるから高音質だ,といった謳い文句の広告が増えてきました。
しかし,低ジッターは高音質を保証してくれません。なぜなら,低ジッターであるということは,D/A変換がより正確に行われているということを意味しているに過ぎず,DACの性能はジッターだけ決まることはないからです。
高音質なデジタル音源の再生には,低ジッターであること,高品質なDAC ICを使うこと,高品質なLPF(デジタル録音の折り返し雑音を除去するフィルタ)を使うこと,高品質なI/V変換回路(DAC ICの出力は直流なので,これを交流に変換する回路)をつかうこと,これらを高品質な電 源で動作させることが必要不可欠です。どれか一つが欠けてしまっても,そこがボトルネックになってしまい性能が低下してしまいます。
すなわち,低ジッターであることは高音質な再生にとって必要不可欠ではありますが,低ジッターであれば高音質であるわけではない,ということです。
では,ジッター対策のための考え方とその手法についてみていくことにしましょう。
何を改善すべきか
これまでの内容を整理しますと,
- データそのものの中身はジッターの影響を受けない
- アナログに変換して再生する際にジッターが問題になる
- ジッターをゼロにすることはできない
- ジッターといっても様々な測定方法がある
- ジッターのどのような振る舞いが聴感上影響を及ぼすのかは明らかでない
- ジッターによってS/NやTHD(全高調波歪み率)などが変化する例がある
- ジッターの変化が一般的に認識可能であるかどうかについては議論がある
といったところでしょうか。なんだか問題があるけど解決法がよくわからない…しかも影響があるのかないのかもよくわからない…という非常にやっかいな状況であるのは間違いがないでしょう。
(水晶)発振器の品質を改善する
発振器の交換
発振器そのものを載せ替えるという方法も,数年前にかなりブームになりました。最近では最初から低ジッターを謳う機器が増えてきたため,前ほど発振器の交換は盛んではありませんが,今でも熱心な方は挑戦されているようです。
Wordsyncする
内蔵の水晶発振器の品質があまり高くないものであっても,高品位なWord Clock信号を送ってSlave動作をさせると,少なくとも聴感上はかなりの音質向上が見込まれます。
もっとも,内蔵(インターナル)のクロックの品質が高い場合に,外部とWordsyncをするとジッターが増大するという例が報告されています。ところが,この場合にジッターが増大したとしても聴感上は好ましいと判断されるケースもあるため,ジッターと音質の関係は必ずしも明らかではない,といわれるわけです。
Protoolsとクロック,ジッターの関係について比較的平易に解説しているものとして下掲。
PLLの動作についても解説がなされている。ジッターの値が低ければそれでよいというわけではなく,第三の要素が存在するということが推測できる。
○「クロッキング、ジッターとDigidesign 192 I/Oオーディオ・インターフェース」(Clocking, Jitter and the Digidesign 192 I/O Audio Interface)
http://akmedia.digidesign.com/support/docs/WhitePaper_ClockJitter_J_33269.pdf
電源の品質を改善する
以下のような対策が考えられます。詳細は『電源』をご覧下さい。
- ATX電源そのものの品質を向上させる
- PCの消費電力の低消費電力化をすすめて安定化電源で動かす
- ジェネレーターを使う
グラウンド(GND)経由のノイズを改善する
以下のような対策が考えられます。詳細は『ネットワーク関連パーツ』をご覧下さい。
- アイソレーショントランスを使う
- LAN用トランスを使う
- 光メディアコンバーターを使う
振動を減らす
以下のような対策が考えられます。詳細は『ケースと振動対策』をご覧下さい。
- 筐体を制震する
- インシュレーター・ボードを使う
S/PDIF,AES/EBUを使わない
デジタルオーディオにおいて根本的にジッターの問題を最小限度にとどめる(ゼロには出来ません)には,伝送時のクロックジッターを解決する方法はデータとクロックを一緒に送らないということに尽きます。つまり,データをS/PDIFやAES/EBUで送らないということです。加えて,データを受け取った先で即D/A変換するのが理想です。
この原理原則論に最も忠実なのがネットワークオーディオプレーヤーですが,ネットワークオーディオプレーヤーで注意しなければならないのは,内部のクロック品質がどの程度であるかが非常に重要になってくることと,LAN由来の外来ノイズ対策がどの程度なされているか,ということでしょう。
実際のところ,Stereophileの測定結果では再生時のジッター値も非常に優秀なので,他の一般的なDACと比べると高性能であることに疑いはないのですが,使いこなしという点から考えると,LAN経由のノイズ,特にグラウンドループを原因としたノイズについては慎重に対策する必要があります。
また,振動についても,発振器を使う以上は対策したほうがベターであるといえるでしょう。そういう意味では完璧でただ置けば良い,何もしなくてもどこでも同じクオリティで楽しめるという機器でもないわけです。それぞれの対策については上掲の別項や『ネットワークオーディオを使いこなす』をご参照ください。

