PCオーディオの流派を考える

データ処理編

PCオーディオのには大きく分けて4つの流派があるように思われます。皆さんはどの流派でしょうか。
PCオーディオについて相手と意見 交換をする場合には,自分の流派,相手の流派,をきちんと把握しておかないと,話がかみ合わなくなったり,下手をすると喧嘩になってしまうかもしれませ ん。せっかくの同好の士なのにそういうことがあると不幸ですから,何度も意見交換をしている相手ではない場合には,それとなく自分のスタンスを伝えつつ相 手のスタンスを尋ねる(もしくは探る)と良いのではないでしょうか。
言うまでもないことですが,以下の分類方法もある一面からみたものに過ぎませんから,参考程度の分類とさせていただきたいと思います。

▼バイナリ至上主義派
CDから正確にデータをリッピングした以上,それを改変することなくDACに送ることが重要であるとする流派です。
DACそのものは既にお気に入りのものがあり(大抵はオーディオ専業メーカーのハイエンド機を使っていたりする),性能的にも満足しているので,それをい かに生かすかという立場でしょうか。前提としてCDに記録されたデータを正確な状態で記録しなければならないことから,ハードおよびソフトの選択肢が狭ま ります。
この「正確な状態」の理解が統一されていないので,バイナリ至上主義派は実態としてはさらに3つに分かれているような印象です。これ は,クロックだジッターだと盛り上がっている場合にPCを改造するという点では結果的に一緒なのですが,改造がどの要素に功を奏するのかという部分の解釈 が若干ずれているということです。

○バイナリ一致すれば再生音は同じだよ派
ジッターの変化が人間には聞き取れたという科学的根拠(学術論文など)の不存在を理由に,ジッターの変化は人間の耳には聞き取れないから,バイナリが一致すれば再生音は同じであるとする立場です。
この立場ですと,バイナリが一致する限りリッピング用ドライブはどれでもよく,バイナリが一致する限りリッピングソフトによる違いは無い,という理解になります。論理としては非常に明快で論理破綻はありません。
バイナリとジッターの関係を誤解している方は,音が違うのだからバイナリが違うはずという結論に陥りやすいですが,この立場の本来的な解釈としては,バイ ナリが一致していて音が変化して感じるのであれば,それは人間の思い込み(placebo)である,ということになることに注意しましょう。
○バイナリ一致すればデータは同じだよ派
バイナリが一致すればあとはデータそのものは同じなので,聴感上の変化は全てジッター由来(少なくともデータの変化ではない)であるとする立場です。
この立場ですと,基本的にはバイナリが一致する限りリッピング用ドライブはどれでもよく,バイナリが一致する限りリッピングソフトによる違いは無い,とい う理解になります。ただし,ジッターに影響する可能性があると各自が判断したものについては適宜取捨選択することになりそうです。
このように音の変化の要因を全てジッターに押しつけることになる点には批判もあるわけですが,論理的に矛盾しているわけではありません。とはいえ,ジッターに影響するという結果を示せていない以上は,仮説の域を出るものではありません。
○バイナリ一致でも不十分だよ派
これに対して,リッピングドライブやリッピングマシンの改造がそのまま音質に影響するとする立場も存在します。特徴的なのは,ジッターの議論とは別に,バイナリが一致していても音が変化することがあるとする点です。
この立場ですと,リッピングドライブの取捨選択にとどまらず,ドライブそのものを改造したり,保存媒体も改造したりと,あらゆる点で妥協が難しくなります。
PCオーディオはオーナー独自の工夫がリッピング環境に施されることも多く,PCをソフトウェア的にもハードウェア的にも改造しまくる方いらっしゃるの で,そのなかで経験的にそう感じているということだと思われます。この立場の根拠を論理的に説明するのは非常に困難です。

バイナリ至上主義派は,思想として排他的にならざるを得ず,他の流派を混ぜた解釈は困難です。まさにバイナリ・ドグマという感じですね(笑)。

▼アップサンプリング・アップコンバージョン派
CD規格のWAVデータを24bit・96kHz?192kHzのデータにソフトウェアでアップコンバージョンしたものを再生することが重要であるとする流派です。
既存のDACで使われているLPFの性能を問題視して,それならいっそリアルタイム性を捨ててでもフィルタの精度を出来るだけあげて,折り返し雑音をでき るだけ可聴帯域外に追いやるほうがよかろうという発想で,単なるゼロデータ補間ではなくDAC側の負担をデータの加工で補ってやろうという立場です。
従来のピュアオーディオ志向にどっぷりでない若いオーディオファンはわりとこの立場を取る方が多いような…。どうせDACでオーバーサンプリングするんだから,時間かかってでも手持ちのDACの欠点をフォローできるほうがいいという考えは一理あります。
ただしエンコードに時間かかるのでHDD容量と時間が余っている人向けなのと,ハイビットレートでデータをやりとりするので,ジッター耐性が低くなりがちです(ジッターに対する要求度が厳しくなるため)。

▼イコライジング派
積極的に音をいじることができるのがPCのメリットと考える流派です。
一般にオーディオ機器を用いて周波数特性等々を調整できる範囲というのはかなり狭いので,PCの有り余るCPUパワーを使ってこれを自在に実現しようという発想ですね。
この流派の場合,「良い音」=好ましい音であって,CDに記録されているデータを忠実に再現するために何をすべきかという視点の他の流派とは立ち位置がか なり違うのも特徴的です。最短経路として耳で聞いて違和感が少ないかどうかで判断すべしというアプローチもありでしょう。
たとえば,最近高音質 化を謳っているiTunesプラグイン形式のアプリ(AmarraやPureMusic)は,アップコンバージョン+イコライジングの合わせ技で音を作っ ているように思えます。ソフトウェア的にもちょっと面倒かつハードウェア的にはほとんどいじりようがないMacユーザーの間で流行しているのも頷けます。

▼利便性最重要視派
とにかくリッピングしたデータをCDをかけ直すなんて手間をかけずに好きなように選んですぐ再生できるという点にメリットを見いだしている流派です。
簡単な操作,簡単な手順でデータ化し,わかりやすいインターフェースで操作できることを重視するので,その点を害さない範囲で音質を考慮する方もいることでしょう。たとえば,DAC以降で好きなように仕上げていくというのも一つの方法です。
実はPCオーディオユーザーを広くとらえた場合にはこの立場が一番多いように思われます。メーカーさんはここの層をいかに取り込んでいくのかが勝負でしょう。

さて,皆さんはいかがでしょうか。これらのなかには両立させることができる部分もありますから,各人の理想に向かって色々と組み合わせてみるのも面白いと思います。以上,ご参考まで。

バイナリ一致を掘り下げよう編

私の考えを少し申し述べますと,まず原理原則論として,ジッターが問題になるのは「録音」と「再生」の二つの局面だと思います。

CD-Rのピットジッター等々が結果的に音の変化要因となっているのは,これがジッター要因だからであって,すなわちCDを回転させて読み取るメカニズムの重大な欠点とされてきました。
これに対し,音楽制作環境においてはDAWによる制作が当たり前となり,既に円盤を回転させる場面というのはほとんど無くなっています。従って,CD(円盤)再生環境と,非円盤再生環境を同列に考えるのは問題の所在を曖昧にしてしまうのではないかと考えています。

もっとも,音楽制作の現場といえども,「再生」音を聞いて判断するわけですから,「再生」時の「ジッター要因」によって音が変わることは大いにあり得ることでしょう。
たとえば,クロックの位相雑音を問題にする場合,あらゆる意味で電源品質は非常に重要で,その観点でみてみるならば,非円盤再生環境であったとしてもジッターの問題は解決したわけではありません。

では,仮にPCオーディオにおいて,記録状態によりバイナリが一致したとしても音が違うという聴感上の結果を,バイナリでは評価しえないデータのわずかな違いの結果であると定義したとします。
この場合,仮説とするにしても筋道を作らなければならない問題点がいくつかあります。なかでも避けて通れないのは,以下のような点ではないでしょうか。
(1)PCはHDDのデータを直接再生しているわけではなく一度RAMに複製してから再生しているが,HDDのデータの違いはRAMにコピーしても反映されるのか?
(2)リッピング時にSLCタイプのSSDに記録した場合,ドライブごとの差は再現可能なのか?
(3)LAN経由でNASや別マシンから読み取ったとしてもドライブごとの差が再現可能なのか?

また,現実問題として,今話題になっているPCオーディオには二つの課題があって,第一に,ジッター要因を詳細に切り分けて実験するのが難しいこ と,第二に,ジッターの議論は結局1000万円クラスのオシロを使って測定して結果出してなんぼだが素人には難しいしやっている人はタダで見せる気はない (笑)こと,が挙げられます。
やはり,ズブではない素人のオーディオさんを拝読していたりすると,音が変わる(良くなった)から低ジッターになったはずだとか,簡単に発言するのは抵抗があります…。ジッターの議論かくあるべし。素晴らしい内容です。クロックの議論は測定なしにはらちがあきません。