音楽CDのリッピングについて知ろう

実はリッピングもレッドブック準拠だった

PCが多機能化して多種多様なハード・ソフトが誕生している昨今,PCユーザーで結構自作歴のある方でも,パーツ毎の細かい挙動までは把握していなかったりすることも多いのではないかと思います。今回は,普段余り意識しないリッピングの話です。特に音楽CDのリッピングに話を絞ります。

リッピングについては下記参照。http://e-words.jp/w/E383AAE38383E38394E383B3E382B0.html

話の発端としては,「前にどういう規格に準拠してるのか前に調べたけど分からなかったんだよな」とふと思いまして,ちょっと調べてみたのですが,相変わらずネットで明記してるページは見あたらず…。そこで,時間も勿体ないので,PC用ディスクドライブを自社生産していると思われるPioneerとSONYに電話で問い合わせしてみました。

【質問内容】
「音楽CD(CD-DA)をリッピングする場合には御社のPC用DVDドライブはいかなる仕様・規格に準拠して読み取りを行うのですか?」
【回答】
「当社純正PC用DVDドライブにおいては,CD-DAの取り込みはレッドブック準拠で行っております。」

2社に確認を取りましたが,2社とも同じ答えでした。PioneerテクニカルサポートセンターのK様,ソニーストレージコールのM様,ありがとうございました(もちろん技術担当の方に確認をとってもらいました)。

レッドブックとはなんぞや?という方に。
http://e-words.jp/w/E383ACE38383E38389E38396E38383E382AF.html

つまり,PC用ドライブだろうと,民生機のCDP/CDTだろうと,原則として読み取り時の動作に違いはない,ということになります。質問はシンプルにするためにDVDドライブに限りましたが,BDドライブでもDVDドライブでもCDドライブでも同様でしょう。
では,結局のところ,「PC用ドライブなら何度も音楽CDのデータを読み取りにいくから,市販のCDP/CDTより高品位に読み取りができる」という話は眉唾なのでしょうか?

リッピングソフトの本来的役割

上述したとおり,PCといえども音楽CDはレッドブック準拠ということですから,何ら工夫無く読み取れば(例えば1度流して読み取って終了する等)バイナリ一致を完全に保証できるかどうかも怪しくなってきます。
また,「市販CDPはバイナリ不一致であるところ,当社製オーディオPCはバイナリが完全一致する」といったことを売りにする手法は,どうしてそういえる のかの説明がなされていない場合には,宣伝文句として怪しくなってくることがわかります。どちらもレッドブック準拠で動作する以上,規格の違いはないからです。
いくらデジタルデータを送り出すカードが優秀でバイナリ的に問題がないとしても,データそのものに問題がありバイナリがCDに記録されているデータと不一致なのであれば,結局CDとの比較ではバイナリ不一致ということになってしまいます。

では,PC用ドライブはCDP/CDTと完全に同一の動作しかしていないのでしょうか?
確かに,当初CDリッピングというものが世の中に登場した時(CD2WAV32が登場する以前~登場後しばらくの間)には,バイナリ値が一定にならないといったこともあったようです(私は生憎その時代にはリッピングを行っておりません)。
その後,CCCD(コピーコントロールドCD)が登場したあたりから,CDリッパーというソフトが社会的に注目を浴びるようになりました。ちょう ど,CloneCD,CD Manipulator,ExactAudioCopyあたりがしのぎを削っていた時代です。これらは,音楽CDはもちろん,CCCDすらも高品質に WAVファイルにしてしまうというのを売りにしたソフトです(なかには別のコピープロテクト突破を売りにしたものもありましたが…)。

CCCDとはなんぞやという方は下記参照。
http://www.muplus.net/cccd/faq.html

また,同時期から,CDリッピングを含めた読み取り品質はドライブに依存するということが,ちょっとPCに関心のある人々の間ではよく知られるようになりました。
なぜなら,如何にソフトウェアが優秀でも,TOCが狂ったメディアもすんなり読むことができるドライブと,そうでないドライブがあったからです。もちろん,レッドブックに正しく準拠しているのが後者で,ある意味規格に+αな機能を付加しているのが前者です。
こうして,CCCDを安定的にリッピングするには,
(1)CDリッパーがCD-DA以外を無視する仕様になっていること&リトライを複数回行うモードを備えていること
(2)取り込み用ドライブがTOCを無視して独自に読み込むこと&リトライを複数回連続で行うことを許容する設計であることという条件が必要だということが認知されるに至ります。

TOCとはなんぞやという方は下記参照。http://kw.allabout.co.jp/glossary/g_digital/w006736.htm

このように,CCCD登場以降,良くも悪くもCDリッパーの存在が広く知られるようになるとともに,CCCDをリッピングできないPC用ドライブは粗悪品,といったイメージが市場に広まりました。
これはある意味自然な流れで,リッピングできるドライブとできないドライブが存在したら,できるドライブを選ぶに決まっています。規格に準拠してるかどう かは大半のユーザーには関係ないことです。多くのユーザーにとって,できるかできないか,それが最大にして唯一の問題であったことは自明でしょう。
私は,この時期からPC用ドライブを生産する各社は売り上げを増やすべくレッドブックに素直に準拠することを放棄した(やれることは何でもするようになっ た),と理解しています。つまり,PC用ドライブのメーカーは「CDのTOCを無視して」「リトライに強い」ドライブを生産するようになった,ということになります。

リッパーの動作をみてみる

では,CDリッピングにおける個人的2大ブランドである,CD2WAV32とEACについて,それぞれのアプローチを知ることで,リッピングソフトの動作をみていきましょう。

CD2WAV32

http://elfin.sakuratan.com/cd2wavfaq.html

CD2WAV32は由緒あるソフトウェアなので,作者様はSCSI全盛期のCDRドライブのころからずっとリッピングを追求されてきたわけですが, 上記のURLの文章にて指摘されているように,「アドレス情報がない」というのがいかんともしがたい問題として存在していたわけです。
この対策として,CD2WAV32では「フレーム間補正」という手法を採用しています。

アドレス情報が存在しない状態というのは,イメージ的には番地等が全く書いていない地域で郵便物を配達しようとするようなものだと思っていただければよいかもしれません。
※ フレーム間補正については下記を参照。フレーム間補正をジッター補正と称するソフトもありますが,これはCDのピットの形成状況をジッター値で表現する手法に由来しているのだと思います。
http://www.cdwavmp3.com/mp3/cdwave/jitter.html

EAC

http://www.exactaudiocopy.de/en/index.php/overview/basic-technology/extraction-technology/

CD-DAの「アドレス情報がない」という問題について,EACの場合は,エラーを検知するとドライブが再読込に対応する限り,複数回読み直すこと で対処しています。動作モードにもよりますが,2回,16回,最大82回まで読み直すことで,とにかく元々記録されているデータ通りに読もうとします(最 終的には最も数多く読み取られた値にする)。

このように,エラーがあった場合にどのように再読込を行うのか,そして再読込も失敗した(かもしれない)場合にどのように補正をするのか,が各種リッパーの設計思想の違いとして出てくるといえます。

LINNからDSシリーズが登場したとき,来日したLINNの技術者の方が,PCがCD-DAを読み取る際には何度も読みに行くから市販のCDPに 比べて読み取り精度が高い,といった発言をされていたことがありましたが,これはEACをセキュアモードで使用した場合で再読込に対応するドライブを使用したときに限り言えることです。事実,TIAS2007ではデモに使われていたノートPCにはEACがインストールされていました。
結局のところ,リッピングソフトの選択は非常に重要で,「PCだから~」といったくくり方は大ざっぱすぎる,ということになりそうです。PCオーディオでは不可避といっても過言ではないCD読み取りの問題,結局はソフトもハードも追求しないといけないのかもしれません。

リッピングで良くある誤解

まずは下掲URLの文章を読んでみて下さい。

http://www.stereosound.co.jp/hivi/detail/feature_386.html

内容がすらすらと頭に入って何も疑問点がない方は,リッピングについてまだ誤解があるか思い込みがあるはずです。以下検討してみましょう。

リッピングはじっくりとデータを読んでいるわけではない

ひとつめは、音楽を途切れさせてはならないCDとは異なり、時間をかけてじっくりと正確なデジタルデータの読出しができること。

まずこの部分は誤りを含む表現だとおもいます。

音楽CD規格の場合,ディスクの回転速度そのものに制限がありますから,倍速駆動して先読みするという仕組みにそもそもなっていません。
ですので,そもそも読むスピードに制限があるせいで,送り出すデータに対する余裕度が低いわけです。例えるなら,消火活動をする際に,近くの池からバケツリレーするしかない,という感じでしょうか。仮に池から水を汲む人が失敗したらリレーが止まってしまいます。
これに対して,PC用ドライブというのは高速で何度も読み返します。たとえるなら,ポンプをつかって池から水をくみ上げてタンクに貯め,そこからバケツで消化する感じです。ポンプの調子が途中で悪くなってもタンクから水を汲めばある程度の時間的余裕がありますね。

つまり,時間をかけてゆっくり読むというのは,人間の感覚でいう時間をかけてという意味ではありません。
大体,当時LINNで使っていたリッピングソフトはEACというソフトで(PhilewebにEACを使っている写真が掲載されています),これはよほどディスクの状態が悪くないかぎりは,最低でも2倍速~4倍速で読みます。ですから,絶対的な時間としてはリッピングの方が短いことになります。

しかも,注意すべきは,音楽CDの読み取り方法という点では,既に述べたようにPC用ドライブも専用プレーヤー内蔵ドライブも差がないということです。同じ規格(レッドブック)で読んでいるのです。差があるのは再読込のコマンドに対応するか否かの違いでしかありません。

リッピングもCDプレーヤーもバイナリは一致するのが当たり前

たしかに、音楽をとぎれさせてはいけないCDプレーヤーの場合、いくらかのバッファーメモリーを与えられているにせよ、ピット上に刻まれたデジタルデータの読込み直しには限界がある。

次にこの点も非常に不可解です。私は基本的にバイナリ的な意味合いでは理論的に完全に読めているケースがほとんどだでしょう。一般的なピュアオーディオ向けCDプレーヤーではバイナリが一致するのは当たり前です。
ただし,CDに記録されたピットの品質でもジッターカウンタというのがあるそうで,ディスク毎にジッター値は異なるようです。その意味で厳密な意味では各CD毎に盤質は異なるため,結果ジッターに影響がでて音質が変化する例はあり得るでしょう。

もちろん、パソコンにて一般的に行なわれているリッピング作業のような48倍速などの高速読出しは行なわず、等倍速以下まで効率は落されるが……。

この方は,おそらくリッピングソフトをあれこれ試したことがないのだろうと思われます。もしくは,ものすごい古いCDRドライブを使用してリッピングしているとか…。
まず,等倍以下で読み取ることはドライブメーカーが提供する特殊なソフトを使わない限り,現在市販されているドライブでは行うことができません。等倍読み込みが可能な世代の古いドライブ使う場合,レーザーピックアップが大抵へたってしまって初期性能から明らかに劣る状態になっているはずです。

また、そうしたアプリケーションを使って音楽CDからパ ソコンのハードディスクあるいはNASにデータをコピーする作業は、これまで一般的に行なわれてきたそれとは違い、ドライブの速度とはほぼ関係なく、相応の時間が必要であることを了解しておかなければならない。それは、CDのピットをもれなく救い上げようという意図からくるものであり、一定範囲に収まるま で、トレース作業が繰り返されるためである。

この指摘自体もやや問題があり,文脈からはある程度まとまった時間が必要であるように読めますが実際には殆ど時間はかかりません。試しに手持ちのCDをEACのもっとも厳しいモードでリッピングしてみました。バースト取り込み(もっとも高速)で18倍速,セキュア取り込み (EACが 推奨する取り込み)で再生時間の5.2倍速でリッピングが完了しました。なお,実験で使用したドライブはPlextorのPremiumです。